浪曲師 玉川太福譚

製作後記:2作目となったこの作品はまさに磁場として表現していくシステムを体現させたものとなった。演劇と”何か”を掛け合わせるという試みであり、この作品はドキュメンタリーとの掛け合わせとなった。様々な事柄との掛け合わせを思索する中で演劇と相反するもの、虚構と現実を一つの作品に織り交ぜた時にどうなるのかという興味はあった。しばらくしてしたまち演劇祭の参加団体公募のチラシを見てこれだと思った。したまち演劇祭では台東区の歴史ある施設での演劇の上演をコンセプトとしている。その中の一つに木馬亭があり、「これだ」と思い取材を進めた。当初は木馬亭という場所に焦点を当てた”場所の持つ記憶”を題材にした作品にする予定だった。しかし取材を続ける中で、玉川太福氏と出会う。そしてこの人の作品にしたいと決めた。製作は非常に難航した。もちろん今までにないシステムである。それを形にするには多くの課題が立ちはだかっており、真にそれに気付かされたのは稽古が始まってからであった。最大の関門は”視点”。当事者の過去を取材し上演する。そこに本人もいて合間にインタビューを挟む。一見わかりやすい構図ではあるが複雑な視点が絡みあっていた。観客は舞台上の芝居よりもそこにいる当事者を見ているだけで面白い舞台にしたいと考えていたのだが、どちらを見ても楽しんでもらう必要はもちろんあった。芝居も当事者に楽しんでもらう必要があるし、もちろん観客にも。当事者の感じ方は観客とはイコールにはならない。そして顔を出すのが虚構と現実だ。虚構に寄せても面白くないし現実に寄せても嘘をつくだけだと感じ、両者を存在させたまま一つの作品として仕上げる必要があった。

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